2010年2月19日金曜日

ヨーゼフ・ゲッベルスの遺産

ナチ軍は、ソ連軍の進撃で壊滅を続けていた。危険はベルリンに迫っていた。アドルフ・ヒトラーは、報告を求めた。だが、宣伝大臣のヨーゼフ・ゲッベルスは葛藤していた。もし真実を伝えれば、解雇は確実、強制収容所行きか、もしかすると射殺されるかもしれない。ヒトラーは、党の方針に従った意見とニュースしか受け入れなかった。その通り!
ゲッベルスは、当時のメディア界をリードする達人と言ってよいだろうが、彼は葛藤を克服し、未来の米国メディア界の標準となるものを打ち立てた。嘘をついたのだ。ゲッベルスは、東部戦線でナチが連日連勝だと報告した。そうして嘘がバレるまで、1年以上も乗り切った。ロシアの戦車が、ゲッベルスのラジオ局を破壊した。
北米のメディアはゲッベルスの手法を学んだだけでなく、より洗練させて感覚を麻痺させるような矛盾も追加したと、訪問客C・モア・ブックス教授は断言する。たとえば、経済混乱は、堅調さをほのめかすような語調で報道する。金融商品の宣伝は、基本的に関連性のない些細な出来事の中から好材料を選び出す。市場の崩壊で「東部戦線」に相当するのが、市場の「調整(コレクション)」と言われるものだ、と教授は、聞きたい人だけに話している。
「一番変な矛盾は、消費と貯蓄の議論だ」と教授は言う。消費は、経済成長につながるので、良いことだと報道される。一方、専門家は、もっと貯蓄が必要だという。資本を形成し投資になって経済成長をもたらすからだ。だが、本当かい?深刻な矛盾がある。消費のマネーは、国内の所得と雇用から生じる。投資のマネーは、ローンから生じる。究極的には、全てのローン・マネーは、銀行が「虚空」から生み出すことを我々は知っている。「虚空」とは、我々国民が共通に「信用していること」そのものだ。この矛盾は、不合理なのか、計画的な詐欺なのか?「資本主義とは、結局、一種の金融の悪ふざけだったのか?」と、教授は全てを知り尽くしたようにくすくす笑う。

ワシントンでは、金融タスクフォースが組織され、景気回復に向けた秘密計画を立案している。成功する見込みのないものに勝利をもたらすという意味では、ナチの「嵐部隊と超兵器」を連想させるものがある。そろそろ資本主義が崩壊したと教授が言い出すタイミングだと思っていたら、カザバジュアのエマが割り込んできた。1555年のバチカンで初の女イエズス会士になった過去生に深いトランス状態で入っていたエマは、何かニュースをつかんだらしい。彼女の名をロコ・ローラという。
ロコは、両手でショールを頭上に思いっきり持ち上げている。そして、壁沿いに闘牛士の気取った短いステップを踏んで、教授の椅子に接近した。マノレテ以来見たことのないターンとジェスチャーで、ロコはショールを教授の顔面にヒラヒラ振った。まるで雄牛の前のトレアドール(闘牛士)だ。


スペインの闘牛士マノレテ(1917-1947)


効果は完璧だ。教授は、まっすぐ座ったボルトのように固まって、アゴを締め、目をしばたかせて、呼吸は重い。ちょっとした行動で穏やかな教授を動物に変えてしまえるロコには驚きだ。
ロコは、アメリカを支配するカリフのことを話したかったのだ。ロコが言うには、カリフは、エリートが少数者(しばしば宗教的にも人種的にも分裂した外国人)に政治権力を与えることで国を支配するときに存在する。政治的公正でないことを自覚しているので、小声でささやいている。それに教授も不快に思っている。ロコが深いトランス状態のコンタクトで得た話をするときは、いつも教授は本気で怒る。愛国者法の下で初の電子的強制収容所が完成したという話をロコがすると特に怒る。

轟音のマシンが乗り入れてきた。デューティーファースト伍長の帰還だ。トゥルースオアコンシクエンス市の真南のロッキー山脈まで一っ走りしてきたのだ。1949年式ハーレー61には、モントリオール市場の情報筋も乗っているではないか。あの地獄のようなマシンに乗ってきたとは驚きだ。
モントリオール市場の情報筋は、狂乱状態で空中浮揚しながら、我々の中に飛び込んできた。「トゥルースオアコンシクエンスでロッキー山脈沿いに走っていたら、強い発光があったんだ」と叫ぶ。伍長は落ちついた様子で、ミュール鹿に衝突して情報筋が頭をぶつけたことを報告した。自由精神そのものの伍長はヘルメットを信じない。「ハーレーのフォークが曲がらなかったのが幸いだ。曲がっていれば、今だに立ち往生してたかもしれない」と言う。

情報筋は、左右を見渡し、アゴを上に向け、手を腰に当て、ムッソリーニの真似事のようなことをしている。「株式市場は、永遠の債務・利子マネーの神、モロクのものだ。あらゆる汚染の起源である」と、天啓を受けて叫ぶ。「公共交通、エネルギー、医療、銀行も保険も、公共事業だ。株式発行の利益計算とは、完全に隔離されるべきものだ」と宣言した。突然、狂ったように笑い始める。「現在、中央銀行はゼロ金利にある。資本主義はもはや存在していない。『マネー』を読むのだ」と、わめく。

ロコは、再び深いトランス状態に入っている。何だかつぶやいている。社会の信用、直接の信用、国家社会主義、第二のバチカン、解放神学、モスクワ・第三のローマ、中国と日本の間に補完的な正反対物の「基軸通貨」マネー・システム・・・。

この女は、ほどほどということを知らないことがある。

By R.D.Willing
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